しかし大会前の惨憺たる内容を考えるとよくここまで立ち直った。これは負け続けた事で選手が危機感を共有し腐らず前を向き続けた事、そして各国の選手が怪我等コンディションの調整に苦しむ中、戦線を離脱する者を出さなかったチームスタッフの献身的なサポートによる所が大きい。それに輪をかけたのが初戦のカメルーン戦で勝利を収めた事。チームに自信が戻ったのと同時に結束力と言う「武器」を身に着けた。試合後の選手のコメント、パラグアイ戦後の表情、振る舞いからもそれが見て取れた。ブラジル戦後、どことなく白けたムードがあった4年前との大きな違いである。改めて選手、チーム関係者に敬意を表したい。
一方で日本のサッカーは、これで世界に近付いたのかと問われて素直に「ハイ」と返事して良いのか、と言う気もする。今回の成績を受けて、岡田監督を称賛する声が目立つようになった。確かに試合に対する勝負勘、名声があっても方針に合わない選手を切り捨てる非情さは、勝負師たる指揮官には必要な要素であり、それらに長けていた事は評価出来る。
しかし代表メンバーも決まった本大会直前になって戦術を変更する大博打を打つ等、迷走した事も無視出来ない。冷静になって考えると、これまで出場したW杯で2006年のブラジル戦以外、ディフェンスが完膚なきまでに叩きのめされた試合は余りなく、今までもディフェンスはそこそこやれていたと思う。
今大会は長年、懸案となっていた守備からいかに得点を奪うかがテーマだったが、それを戦術面から明確に示す事は出来ず、攻撃に関しては選手の能力に頼った感は否めなかった。結局「負けないサッカー」=「守備重視」のサッカーに方針を転換し事が上手く運んだが、「勝つサッカー」が出来なければ決勝トーナメントは勝ち進めない事も改めて分かった。結果論だが今回はベスト16が限界だったのかも知れない。
振り返ってみれば2006年に世界との壁を思い知らされ、更に今大会の前に負け続けた事で失望感が漂った。その反動で「ベスト16」と言う成績は見栄え良い感じがするが、厳しい言い方をすれば2002年W杯終了後の状態に針が戻っただけのような気もする。やはりベスト8に入ってこそ、針を進めた=世界に近付いたと言えるのではないだろうか。ベスト8に入れば、グループリーグの第1ポットに入るのと同等の価値がある。岡田監督が「あと1試合やらせたかった。」と悔しがった言葉の裏には、そんな思いもあったのだろう。しかし、本人が認めているように指揮官にそこまで導く力は無かった。賛否両論あると思うが、個人的には監督就任時に壮大な目標を掲げながらそれが出来なかった指揮官を美化して取り上げる事に少し違和感を覚える。
パラグアイ戦終了後の各選手のインタビューで、決勝トーナメントを勝ち抜く為に何が必要かと言う問いに、個々のレベルアップと答える選手が多くいたが、確か2002年の時も同じような答えを口にする選手が多くいたような気がする。本当の意味で世界に近付けるかは、今後日本代表がどんなサッカーを志向しそれに沿った指揮官を招聘する事が出来、強化方針が立てられるかに懸かっている。逆に今回の成績にあぐらをかいているようだと、再び2006年のような悲劇が起こりかねない。前回のアジア杯でシード権を失った事で、今回のW杯本大会の為のテストマッチが制限された事を考えると、まずは失ったアジアチャンピオンの称号を取り戻す事から始まるだろうか。
個々のレベルアップと言う意味では、海外に出るチャンスがある選手はどんどん海外に出るべきである。世界のサッカーの中心がヨーロッパにある以上、そこで各国の代表クラスの選手と競い合う事がレベルアップへの近道だと思う。(その場が今のJリーグに存在しないのは残念な事だが…。)
大会前の強化試合で某監督は、日本のシステムはまるで「9−0−1」だとコメントした。守備的だと言いたかったのだろう。その戦術からどれだけ脱却できるか。サポーターも今度はグループリーグ突破は勿論、決勝トーナメントで勝ち進む姿を想像しつつ代表を応援するはずである。次の日本代表がW杯決勝トーナメントで1つ2つ勝つ為の術を会得して4年後を迎える事を期待したい。

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